「厚紙」でできたチップやボードは、ちょっと特殊な製造工程で製造されます。
そのため、この製造工程を理解いただいた上でデザインを検討いただけると、作品の完成度をさらに高めていただけるはず。
そんなことで、今回は印刷所の製造現場をちょっと覗いていただきたいと思います。

 

1.そもそも厚紙でできたチップ・ボードの仕様は?

萬印堂のチップとボードは、同じ厚紙で作られています。厚みは約2mm。
「チップボール」と呼ばれる灰色の硬い厚紙に、印刷可能な白い紙を上下から貼り合わせた3層構造になっています。
厚み1mmだと、チップとしては掴みづらく、ボードとしても強度が劣るため、萬印堂ではチップもボードも同じ2mmで統一しています。

なお、萬印堂では厚紙仕様のものを「ゲームチップ」と「ゲームボード」の2種類に分類していますが、いわゆる「タイル」も同じ仕様で製造しています(チップとタイル、タイルとボードの境界線が曖昧なので、パーツの区分を増やすと混乱するため、このようにしています)。
ポーカーサイズくらいまでであれば「ゲームチップ」として、それ以上の大きめのものは「ゲームボード」として価格表に掲載していますので、ご希望のサイズの型があるかチェックしてみてくださいね。

大人気「カタン」で使われているタイル

 

ちなみに本場カジノのチップは「厚み3mm」らしい(そもそも紙ではないけど…)。
厚紙で製造する場合「厚み3mm」だと加工が難しいので、掴みやすさと強度を確保できてギリギリ加工も可能な「厚み2mm」を萬印堂では採用しているよ!

 

 

2.どんな工程で製造されるの?

萬印堂では、チップ・ボードを以下の工程で製造します。
ちなみに、厚み2mmの紙に直接印刷できる機械も世の中には存在するのですが、「量産に向いていない」「高精細な印刷が難しい」などの問題があるため、このような製造工程を採用しています。

① 薄い白紙に、片面印刷します(チップ・ボードが両面の場合は、表と裏で2種)。

なお、「光沢PP加工」「マットPP加工」といった表面加工を施す場合は、この印刷直後に加工を行います。

表面

裏面

 

②〈表面用紙-チップボール-裏面用紙〉の3枚を貼り合わせます(印刷専門用語でこれを「合紙(ごうし)」といいます)。

表と裏の絵柄がしっかり合うように、専用機械で貼り合わせます。

 

③ 金属の抜型で抜き加工します。

薄い金属の刃を折り曲げて作った抜型で、抜き加工を行います。

抜型

黒っぽい部分が金属の刃。オレンジや緑の部分は加工しやすくするためのスポンジです

抜き型と用紙をセットします

用紙を抜型に押し当てて抜き加工します

 

チップの場合、外枠に繋がった状態で納品いたしますので、お客様の方でこれを一枚ずつ外枠からはずしていただきます。
ボードの場合、こちらで外枠をはずして納品いたします。

チップがかろうじて外枠につながっています

軽く押すと簡単にはずれます


なお、オプション料金になりますが、萬印堂でチップを外枠からはずして、チャック付きビニール袋に入れた状態でご納品することも可能です。

 

 

チップが付いた外枠のサイズは「A5サイズ以上」になることが多いけど、製造効率の都合で決まるので、残念ながら指定はできないよ。
なので、「外枠に付いた状態のまま箱に入れたい(エンドユーザーがチップをはずすようにしたい)」という場合は、萬印堂に相談してね!

小さすぎるチップや複雑な図形などは、抜型を作るのが難しいので加工できないよ。
複雑な図形を特注したい場合は、事前に相談してね!

チップの最小サイズは14mm

この程度の図形の加工は可能

角部分は丸みがあれば可能

 

3.制作上の注意点

2.の製造工程を踏まえて、デザインなどを検討いただく際に注意いただきたいポイントをお伝えします。

① チップ・ボードには、「表」と「裏」がある

2.③でご説明したように、抜き加工の際は紙の片方の面から刃が入ります。
したがって、刃が入る方(=表)は圧力でフチが丸みを帯びます。また、刃が抜ける方(=裏)は、圧力によってシワが入る可能性があります(小さいチップほどシワが入る可能性が高くなります)。

ですので、入稿時に提出いただく「表裏対応表」では、このことを意識して「表」「裏」を指定してください。
特にボードの場合、表裏が逆だと、フチが丸い方が下になってしまい違和感があります。

また2つ折りボードの場合、表側に刃が入って山折りになりますので、折ったとき、「表裏対応表」で「表」と指定いただいた方が外側になりますのでご注意ください。

② 抜きズレ対策

製造工程の関係上、最大2mm程度の抜きズレが発生する可能性があります(大抵は1mm程度のズレに収まります)。
ボードはサイズが大きいので多少のズレは目立ちませんが、チップの場合は気になりやすいので、そもそも多少のズレが発生しても目立たないようなデザインにしていただく必要があります。

1mmのズレが発生した場合(左側)

 

実際に大手玩具メーカーさんが作っている市販品でもよく見るとズレているものはあり、これはどうしても避けられません。
とはいえ、ご自身の作品はなるべくキレイに仕上げたい、というお気持ちもお察しします。

対策としては、以下が考えられます。もちろんゲーム内容やデザイン性にもよりますので難しい場合もあると思いますが、可能であればご検討ください。

A.チップのサイズをなるべく大きめにする

ここはコストにも影響してくるので判断が難しいところですが、チップのサイズが小さければ小さいほど、わずかなズレでも目立ちやすくなります。
特に14mm・15mmのチップは目立ちますので、選択される際にはご注意ください。

B.フチを広めにするorフチのないデザインにする

フチのデザインが狭いと、わずかなズレでも目立ちやすくなります。
フチを広め(2mm以上)にするか、そもそもフチのないデザインにしていただくことをオススメします。

フチが1mmで、1mm抜きズレした場合

フチが2.5mmで、1mm抜きズレした場合

フチなし(絵柄は外側より1mm空き)で、1mm抜きズレした場合

 

モノづくりにおいては、上流(デザイナーさん)と下流(メーカー)の相互理解・意思疎通が欠かせません。
ご自身の作品がどんな工程で製造されていくのか、を理解いただくと、より良い作品づくりに繋がるはずです。
もちろん、我々メーカーもデザイナーさんの意図を汲み取れるようこれからも努力してまいります。